富士山は、日本を象徴する存在として古くから親しまれてきた美しい山です。しかし「なぜ“富士”と呼ばれるのか?」と聞かれると、明確に答えられる人は少ないかもしれません。
実は、富士山の名前の由来にはいくつかの説があり、その多くは古代からの信仰や神話、言葉の意味の変化と深く関わっています。
この記事では、富士山の名前の由来や歴史的な文献での表記、そして現代に至るまでの文化的な背景をわかりやすく解説します。
富士山の名前の由来にはどんな説がある?
- 「不二」説(ふじ=比類なきもの)
「不二」とは「二つとない」「唯一無二」という意味を持ちます。
富士山の美しさや雄大さが、他の山とは一線を画す存在とされたことから、この表現が由来になったとされる説です。 - 「不尽」説(ふじ=尽きることがないもの)
「不尽」は「尽きることのないもの」「永遠の存在」という意味。
富士山が季節を問わず常に同じ姿を保っているように見えることから、尽きぬ霊力を持つ山として名付けられたとも言われています。 - アイヌ語起源説
アイヌ語で「フチ」は火を、「ヌプリ」は山を意味します。
つまり「フチヌプリ=火の山」が変化して「フジ」になったという説です。
富士山が活火山であることからも、説得力を持つ仮説とされています。
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- 竹取物語説(不死の山)
平安時代に成立したとされる『竹取物語』では、かぐや姫が天に帰る際に「不死の薬」を富士山の頂で燃やしたと記されています。
そこから「不死の山」→「ふしのやま」→「ふじのやま」に転訛したという文学由来の説も有名です。
文献における富士山の登場と表記の変化
富士山が初めて文献に現れたのは、720年に成立した『日本書紀』で、「富斗斯(ふとし)」という表記がなされました。
その後、『万葉集』では「不尽の高嶺」や「布士」などさまざまな表記が登場し、平安時代には「富士」の表記が広く定着していきます。
『源氏物語』『枕草子』といった平安文学の中でも、富士山は遠くから眺める神聖な存在として描かれており、日本人にとって早くから特別な意味を持っていたことがうかがえます。
信仰と芸術の対象となった富士山
富士山は古来より霊山とされ、多くの信仰対象とされてきました。特に江戸時代には「富士講」と呼ばれる信仰集団が盛んになり、多くの庶民が富士登山を通じて精神修養を行っていました。
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江戸時代には富士山を題材とした浮世絵も人気を博し、特に葛飾北斎の『富嶽三十六景』は、視覚的にも富士山の美と神性を印象づけました。
世界遺産に登録された「富士山」という名前
2013年、富士山は「信仰の対象と芸術の源泉」としてユネスコ世界文化遺産に登録されました。
この登録名に「Mount Fuji」ではなく、日本語の「富士山」が使われたことは、その名前自体が文化的象徴として評価された証でもあります。
世界遺産登録後は、外国人観光客にも「FUJI」という名称がそのまま浸透し、言語を超えた普遍的な象徴となっています。
まとめ
- 富士山の名前の由来には「不二」「不尽」「アイヌ語由来」「竹取物語」などの複数説がある
- 日本書紀や万葉集をはじめ、古典文学や記録に「富士山」が様々な形で登場してきた
- 江戸時代には信仰・芸術の両面で広まり、日本人の精神文化に深く根付いた
- 世界遺産登録により、「富士山」の名は世界的な文化的ブランドとなっている
そして、「富士山」の名前の由来を知ることは、ただの地名を超えて日本人の精神の源流に触れることでもあります。
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