「飛行機や新幹線で寝たはずなのに、到着するとなんだか体が重い」
「バスでうとうとしていたら、首が痛くて余計に疲れてしまった」
移動中につい襲ってくる眠気。これに身を任せて寝てしまうべきか、それとも頑張って起きているべきか、迷ったことはありませんか?
実は、移動中の睡眠は、家のベッドで寝るのとはまったく別の種類のものです。これを混同していると、「寝たのに疲れている」という謎の不調に悩まされることになります。
この記事では、移動中の睡眠の正体と、到着後に元気に行動するための「賢い寝方」の技術を、実体験と科学的な視点を交えて解説します。読めば次の旅行や出張が、ぐっと楽になるはずです。
移動中の睡眠は「充電」ではなく「節電」である
結論から言います。
移動中に寝ることは無駄ではありませんが、体力を回復させる(充電する)効果はほとんどありません。
その代わり、移動による疲れやストレスで体力が減るのを防ぐ「節電(省エネ)」の効果はあります。
- 家の睡眠 = バッテリーを充電して100%に戻す
- 移動中の睡眠 = アプリを閉じてバッテリーの減りを抑える
この違いを理解しておかないと、「たっぷり寝たから夜まで遊べるはず!」と無理をして、到着早々に体調を崩すことになります。
移動中は「回復しよう」と欲張らず、「これ以上消耗しないようにする」というスタンスで寝るのが、最も賢い過ごし方です。
なぜ乗り物に乗ると眠くなるのか?
そもそも、なぜ私たちは電車やバスに乗ると、あんなに眠くなるのでしょうか?
「疲れているから」だけではない、乗り物特有の理由があります。
1. 「1/fゆらぎ」の心地よさ
電車やバスの「ガタンゴトン」「ブーン」という一定のリズムの振動。これは「1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)」と呼ばれ、人間の心拍数や小川のせせらぎと同じリズムを持っています。これが脳をリラックスモードに強制移行させるため、抗えない眠気がやってきます。
2. 二酸化炭素濃度の上昇
飛行機や満員のバスでは、換気がされていても酸素濃度がわずかに下がったり、二酸化炭素濃度が上がったりしやすい環境です。これが軽い「あくびが出る状態」を作り出します。
3. 「やることがない」という強制的な退屈
スマホを見ていても、身体は拘束されています。脳が「今は活動する必要がない」と判断し、スリープモードに入ろうとします。
この「強制的な眠気」に逆らってスマホを見続けると、脳は覚醒しようと頑張るため、自律神経が疲弊してしまいます。眠いときは、素直に目を閉じるのが正解です。
移動睡眠の「質」を上げる具体的なテクニック
では、どうすれば「質の悪い移動睡眠」を少しでもマシにできるのでしょうか?
高価なグッズを買わなくてもできる、ちょっとした工夫を紹介します。
首を「後ろ」ではなく「前」で支える
多くの人が、座席のヘッドレストに頭を預けて上を向いて寝ようとします。しかし、これだと口が開き、喉が乾燥し、イビキの原因になります。
おすすめは、顎を引いてうつむき加減で寝ることです。
ネックピローを使う場合も、実は留め具を前にして、顎の下にクッションが来るように装着すると、首がガクッとならずに安定します。
ちなみに、眠りに落ちる瞬間に体が「ビクッ!」となって目が覚めてしまい、恥ずかしい思いをしたことはありませんか?
あれは「ジャーキング」と呼ばれる現象ですが、不安定な姿勢で寝ていると起きやすくなります。
こうした睡眠時の不思議な現象については、眠りかけにビクッとなる・落ちる感覚はなぜ起きる?ヒプニックジャーク完全ガイド で詳しく解説しています。姿勢を安定させることは、この「ビクッ」を防ぐためにも重要なのです。
「視覚」を完全に遮断する
移動中の車内は、トンネルの出入りや対向車のライトなど、光の刺激に溢れています。瞼(まぶた)を閉じていても光は入ってくるため、脳は完全に休まりません。
アイマスクがない場合は、フードを深く被るか、帽子を目深に被るだけでも効果は劇的に変わります。
食事のタイミングを計算する
「乗ったらすぐ寝たい」なら、搭乗・乗車の直前に満腹にするのは避けましょう。
満腹状態で座りっぱなしになると、消化不良を起こして睡眠の質が下がります。
逆に、適度な眠気を誘いたいなら、乗車1時間前くらいに炭水化物を摂っておくのがコツです。血糖値の変動を利用した眠気のコントロールについては、食後の眠気の原因と正しい対策|寝るのはNG?カフェイン活用のコツも解説 を参考に、自分の体質に合ったタイミングを見つけてみてください。
やってはいけない「疲れを倍増させる」寝方
良かれと思ってやっていることが、実は逆効果になっているパターンです。
- × アルコールで寝酒をする
- フライト中にお酒を飲むと、気圧の関係で普段より酔いやすく、脱水症状になりやすくなります。眠れるかもしれませんが、その睡眠は「気絶」に近く、目覚めのダルさは最悪です。
- × 窓に頭をガンガンぶつける
- 窓側の席で壁に頭をもたれるのは楽ですが、振動が頭蓋骨に直接伝わるため、脳への負担が大きいです。タオルや上着を分厚く挟んでクッションにしましょう。
- × 到着直前まで爆睡する
- 降りる瞬間まで深い眠りにいると、起きた直後の「睡眠慣性(寝ぼけ)」で荷物を忘れたり、転んだりします。到着の20分前には起きて、軽くストレッチをして交感神経をスイッチオンにしましょう。
FAQ よくある小さな疑問
Q. 15分の仮眠と、1時間の睡眠、どっちがいい?
A. 移動中は「15〜20分」の仮眠を繰り返すのがおすすめです。
座った状態で1時間以上寝続けると、血流が悪くなりエコノミークラス症候群のリスクが上がります。「ちょっと寝て、起きて水を飲み、また寝る」くらいの浅いサイクルのほうが、体への負担は少ないです。
Q. ノイズキャンセリングイヤホンは効果ある?
A. 絶大です。
音楽を聴かなくても「耳栓代わり」につけておくだけで、エンジン音という「低周波騒音」をカットできます。この騒音は無意識のうちに脳を疲れさせる大きな原因なので、これを取り除くだけで疲労感は激減します。
まとめ
移動中の睡眠は、あくまで「体力の消耗を防ぐためのアイドリングストップ」です。
- 移動睡眠に「回復」を期待しすぎない。
- 「首の安定」と「光の遮断」で、睡眠の質を確保する。
- 到着20分前には起きて、脳を再起動させる。
次の旅行では、「ぐっすり寝て回復しよう!」と意気込むのをやめてみてください。「とりあえず目を閉じて、脳を休ませておこう」くらいの軽い気持ちでいるほうが、結果として到着後のパフォーマンスは上がります。
さあ、ネックピローの向きを逆にして、良い旅を。
