陸上競技を見ていると、短距離走の選手はみんな体がガッチリしていて、いわゆる“マッチョ”な印象を受けませんか?
一方、マラソンや長距離選手はスリムで細身の体型が多く、同じ「走る」競技なのに体つきがまったく違います。
「なんで100m走の選手だけ筋肉ムキムキなの?」
そんな疑問に、科学的な視点からわかりやすくお答えします。
結論:一瞬の爆発力に“瞬発系の筋肉”が必要だから
短距離走は、スタートの反応速度や加速力、トップスピードの維持など、数秒の間に最大限の力を発揮する必要があります。
そのため、必要なのは「速く力強く動ける筋肉」=速筋(白筋)です。
この速筋を鍛えるためのトレーニングでは、高負荷の筋トレや瞬発系の運動が中心となるため、自然と筋肉が太く発達し、マッチョな体型になっていくのです。
「速筋」と「遅筋」ってなに?
私たちの筋肉には、大きく分けて以下の2種類があります。
- 速筋(そっきん)=白筋
- 短時間で大きな力を出す
- 持久力は少ないが爆発的な動きに向いている
- 短距離走、ジャンプ、ウェイトリフティングなどで活躍
- 遅筋(ちきん)=赤筋
- 長時間使い続けられる持久力のある筋肉
- 力は小さいが疲れにくい
- 長距離走、登山、水泳などに向いている
短距離走の選手はこの速筋を極限まで鍛えることで、スタートダッシュや100mを9秒台で駆け抜けるような身体能力を発揮しているのです。
筋肉を大きくする理由とは?
単に速く走るだけでなく、「大きな筋肉」が必要な理由は主に以下の通りです。
- スタートで一気に加速するため
- 地面を強く蹴る力=筋力が必要
- スプリント中のフォームを安定させるため
- 姿勢を保ち、パワーを効率よく伝えるには体幹や腕の筋肉も重要
- 一歩ごとの推進力を最大化するため
- 太ももやお尻の筋肉が大きいほど、蹴り出しの力も大きくなる
そのため、短距離走のトップアスリートはウェイトトレーニングを積極的に取り入れ、競技の一部として“筋肉を育てる”ことを重視しています。
マッチョに見えるけど、ただの筋トレではない
一見ボディビルダーのようにも見える短距離選手の体ですが、実は「見た目の美しさ」よりも、「競技のための効率的な筋肉」が優先されています。
- 腕の振りや腰の回転を最大限に生かせるよう、無駄のない筋肉構成
- ジャンプやダッシュ、急停止といった動作の反復に耐える筋力
- 体重が重くなりすぎないようバランスを保った体づくり
つまり、“機能美”としての筋肉=走るためのマッチョなのです。
全力で走っていれば筋肉はつく?それとも筋トレしてる?
「走っていれば自然とマッチョになるのでは?」という疑問ももっともです。
結論から言えば、走るだけでもある程度は筋肉がつきますが、それだけであそこまでマッチョにはなれません。
短距離選手は、競技練習に加えて戦略的に筋トレ(ウェイトトレーニング)を取り入れています。
具体的には:
- スクワットやデッドリフトなど下半身の爆発力を高める種目
- ベンチプレスなど上半身の安定性を高める種目
- クリーンやスナッチといった全身を連動させる瞬発系種目
などを通じて、「速く走るために必要な筋肉」だけを効率よく強化しています。
一方、スプリントそのものも高強度のトレーニングではありますが、筋肥大(筋肉を大きくする)という観点では刺激が限定的です。
特に上半身や体幹は走るだけでは十分に鍛えられないため、別途ジムでの筋トレが不可欠なのです。
つまり、短距離選手のマッチョな体は「走っていたら自然にそうなった」というより、走るために意図的に作り上げた体ということになります。
長距離選手との違いは「持久力 vs 瞬発力」
マラソン選手や駅伝ランナーがスリムなのは、「遅筋」を中心に鍛えているからです。
長時間走り続けるには、軽さと持久力が最優先。無駄な筋肉は酸素消費を増やすだけなので、必要最小限の筋肉を維持する方向で鍛えられます。
つまり、「マッチョかどうか」は見た目ではなく、競技の特性に合わせた最適化の結果なのです。
まとめ
- 短距離走の選手がマッチョなのは、爆発的なスピードを出すために速筋を徹底的に鍛えているから
- 筋肉は“走るための道具”であり、競技に最適化された「機能的な体」
- 走るだけで筋肉はある程度つくが、あそこまでの筋肉は意図的な筋トレによるもの
- 長距離走との体型の違いは、「瞬発力」か「持久力」かの違いによるもの
- 短距離選手の筋肉は、速く走るための“機能美”と言える
今度オリンピックや陸上競技を観るときは、選手の筋肉にもぜひ注目してみてくださいね。