はじめに
「故意殺人罪」と「殺人罪」。よく混同される2つの用語ですが、実は「故意殺人罪」という罪名は日本の刑法にはありません。これは中国や韓国など、アジアの法制度の影響によるものです。
日本の刑法における殺人罪
基本的な定義
- 刑法第199条で規定される「殺人罪」が基本
- 人を殺害する意思(故意)をもって人を死亡させる罪
- 法定刑は死刑または無期もしくは5年以上の懲役
殺意(故意)の認定
日本の裁判では、殺意の存在が特に重要視されます:
- 確定的故意:死を確実に意図した場合
- 未必の故意:死の可能性を認識しながら行為した場合
- 過失:死の結果の予見可能性がある場合
中国の刑法における故意殺人罪
基本的な定義
- 刑法第232条で規定される「故意殺人罪」
- 故意に人を殺害する罪
- 法定刑は死刑、無期懲役または3年以上の有期懲役
情状による量刑の違い
中国では「情状」(犯行の状況や背景)が量刑を大きく左右します:
- 情状が特に重い場合(死刑)
- 複数人を殺害
- 特に残虐な方法
- 公共の安全を著しく脅かす場合
- 情状が比較的重い場合(無期懲役)
- 計画的な犯行
- 金銭目的の殺人
- 重要な社会的影響がある場合
- 情状が軽い場合(3年以上10年以下)
- 強い挑発を受けての犯行
- 重大な悔悟の情が見られる
- 自首した場合
アジアの法制度における特徴
「故意殺人」という用語
- 中国:故意殺人罪
- 韓国:故意による殺人罪
- 台湾:故意殺人罪
→アジアの法制度では「故意」を明確に示す傾向
日本との違い
- 日本:故意は殺人罪の要件として当然に含まれる
- アジア諸国:故意の存在を罪名で明示する傾向
さまざまな殺人罪(日本の場合)
加重類型
- 強盗殺人罪(死刑または無期懲役)
- 強制性交等致死罪
- 爆発物破裂殺人罪
減軽類型
- 嬰児殺罪(刑法第200条)
- 同意殺人(6月以上7年以下の懲役)
- 自殺関与(6月以上7年以下の懲役)
日本と中国の主な違い
法定刑の違い
- 日本:5年以上の懲役から死刑まで
- 中国:3年以上の懲役から死刑まで(情状により大きく変動)
量刑基準の違い
- 日本:裁判所の裁量が比較的広い
- 中国:情状による量刑基準が明確に規定
故意の概念の違い
- 日本:殺意の程度や態様を詳細に検討
- 中国:故意の有無をより形式的に判断する傾向
まとめ
日本の刑法では「殺人罪」が正式な罪名であり、中国では「故意殺人罪」が正式な罪名です。アジアの多くの国では「故意」を罪名に含める傾向がありますが、日本では殺人罪に故意が当然に含まれるものとして扱われています。また、中国では情状による量刑の違いが明確に規定されているのに対し、日本では裁判所の裁量がより広く認められている点も大きな違いと言えます。