正直に言うと、私も昔「精製塩=悪い」「自然塩=体にいい」みたいなイメージをなんとなく持っていました。パッケージに「天然」「にがりたっぷり」と書いてあると、ついそっちを選びたくなりますよね。
先に一番気になるところだけハッキリさせておくと
- 精製された塩だけが特別に体に悪いという決定的な証拠はない
- 海塩や岩塩、自然塩も、主成分はどれもほぼナトリウム(食塩)で健康への影響はほぼ同じ
- 健康面で一番大事なのは「どの塩か」より「トータルの塩分量」
というのが、今のところの医学的な見方です。
なので「精製塩は毒だから今すぐ捨てろ」というほどではないし、「自然塩ならいくら舐めても大丈夫」というのはむしろ危険寄りの発想です。
ただ、それで話が終わると「結局どれを買えばいいの…?」と余計モヤモヤするので、この記事では
- 精製塩とほかの塩の違い
- 健康面で本当に気にした方がいいポイント
- 普段使いの塩をどう選べばいいか
を、ほどよく現実的な目線で整理していきます。
精製塩ってそもそも何?他の塩との違い
まずは「名前の違いゲーム」になりがちなところを、サクッと整理します。
精製塩・食塩・自然塩…ざっくり分類
スーパーでよく見る塩を、大きく分けるとこんな感じです。
- 精製塩(一般的な「食塩」)
- 海水や地下塩水を逆浸透膜や電気分解などで濃縮し、不純物やミネラルを取り除いて、ほぼ塩化ナトリウムだけにしたもの
- 粒が均一でさらさら。安価で、計量もしやすい
- 海塩(天日塩・平釜塩など)
- 海水を天日や釜でじっくり濃縮して作る
- マグネシウム・カリウム・カルシウムなどの「にがり」が少し残る
- 岩塩
- 昔の海が地中で固まった「塩の鉱石」を砕いたもの
- ヒマラヤ岩塩など、ピンクや黒など色付きのものも
- 低ナトリウム塩(減塩タイプの塩)
- 塩化ナトリウムの一部を、塩化カリウムなどに置き換えて、ナトリウム量を減らした塩
名前はいろいろありますが、精製塩か自然塩かにかかわらず、主成分はどれもほとんど塩化ナトリウムです。
「ミネラルが多い塩=体にいい塩」ではない
自然塩や海塩のパッケージには
- ミネラルたっぷり
- 海の恵みをそのまま
- 精製していないから体にやさしい
といった表現が並びます。
確かに、海塩や一部の岩塩には、マグネシウムやカリウムなどの微量ミネラルが含まれています。
ただし、その量は「健康効果が変わるほどではない」というのが専門家の共通した見解です。
- 海塩に含まれるミネラルは、健康に影響するには少なすぎる
- ミネラルをとりたいなら、塩より野菜や果物、海藻からの方が圧倒的に効率的
という指摘が複数の公的機関や専門家から出ています。
つまり
「自然塩はミネラルが多いから、精製塩より健康にいい」
という宣伝文句は、かなり話を盛っていると思っておいた方が安全です。
健康面で見ると何が違うのか
では「精製塩は体に悪いのか」という本題に戻ります。
いちばん大事なのは「塩の種類」より「量」
高血圧や心血管病との関係で問題になるのは、どの塩を使うかではなく、ナトリウムをどれだけとっているかです。
- WHO
- 1日の食塩摂取量を5g未満に抑えることを推奨(ナトリウムにして2,000mg未満)
- 日本高血圧学会・厚生労働省
- 一般の日本人の目標値
- 男性 7.5g未満/日
- 女性 6.5g未満/日
- 高血圧の人は6g未満/日を推奨
- 一般の日本人の目標値
ここでポイントなのは、
- 精製塩でも自然塩でも、同じグラム数を使えばナトリウム量はほぼ同じ
- どの種類の塩を使っても、とりすぎれば高血圧などのリスクは上がる
ということです。
「天然塩なら血圧が上がらない」といったSNSの情報については、日本の医師も「科学的根拠はない」と明言しています。
「精製塩だけが危険」という話が出てくる理由
それでもネット上では
- 精製塩はにがりを除いているから「命のない塩」
- 精製塩は体を冷やす、自律神経を乱す
- 自然塩ならいくらとっても大丈夫
といった極端な主張をよく見かけます。
ただ、これらは
- 科学的なデータではなく、個人の体験談や思想に基づく話が多い
- 「精製塩を悪者にした方が、自然塩が売れやすい」というビジネス構造も混ざっている
という側面があります。
WHOや各国の心臓病学会・高血圧学会は、塩の種類によって健康リスクに差が出るというエビデンスはないとしています。
ミネラル入りの塩で「減塩」できるわけではない
「ミネラルが多い塩なら、同じ量でも体にやさしいはず」と思いたくなりますが、ここも注意ポイントです。
- ミネラル分が多い塩でも、ナトリウムが減るわけではない
- 味にコクが出るぶん「おいしいから余計にかけてしまう」リスクもある
この意味で、本当にナトリウム量を減らしたいなら
- ナトリウムの一部をカリウムなどに置き換えた「低ナトリウム塩(減塩タイプの塩)」
の方が、まだエビデンスがあります。脳卒中の既往がある人で、通常の塩より再発リスクや死亡リスクが下がったという大規模研究も出ています。
ただし
- 腎臓病などでカリウム制限がある人には危険になる可能性もある
ので、ここは必ず主治医の指示を優先です。
結局どんな塩を選べばいい?
健康本やSNSが騒がしいせいで、塩売り場でフリーズしがちですが、実務的にはこのくらいの割り切りで十分かな、と思います。
1 料理のベースは「扱いやすい塩」でOK
普段の料理に使う塩は
- 粒が均一で計量しやすいもの
- 味が自分好みで、コスパも納得できるもの
このあたりを基準に選んで大丈夫です。
- ベーシックな精製塩(食塩)
- 粗塩だけど、粒がある程度そろっている海塩
など、レシピの分量が再現しやすいかどうかも意外と大事です。
2 仕上げ用に「風味の違う塩」を一つ持つ
健康云々は一旦横に置いて、味と楽しさのために仕上げ用の塩をひとつ置いておくのはアリです。
- フレーク状のシーソルト
- 岩塩ミル
- 燻製塩やハーブ入りのブレンド塩
こういう塩は
- 使う量が少なくても満足感が出る
- 「特別感」があるので外食欲を少し抑えられる
という意味で、結果的に塩分全体を抑える助けになることもあります。
3 ヨウ素が気になるなら「ヨウ素入りの塩」や海産物でカバー
海外では、甲状腺ホルモンに必要なヨウ素を補うために「ヨウ素強化塩(iodized salt)」が一般的です。
日本は昆布・わかめなどの海藻をよく食べる文化があるので、ヨウ素不足はむしろ少ないとされていますが、極端なダイエットや偏食がある場合は気にしてもいいポイントです。
- 海藻や魚介類をふだんから食べているなら、特に塩でヨウ素を意識しなくても大丈夫なことが多い
- 心配な場合は、ヨウ素入りの塩を選ぶか、医師に相談のうえでサプリを検討
といったぐらいのスタンスで十分です。
塩との付き合い方 ちょっと実践的なコツ
「どの塩がいいか」よりも、明日からの食卓で何を変えるかの方が、健康には効いてきます。
1 自宅の「かけ塩」より、加工食品の塩分を意識する
実は、私たちがとっている塩分の多くは
- パン、麺、スナック菓子
- ハム・ソーセージ・ベーコン
- レトルト食品、インスタント食品、外食
など、「最初から味が付いている食品」から来ています。
家のキッチンでふりかける塩を高級品に変えるより
- インスタント麺のスープを全部飲まない
- みそ汁は1日1杯までにする
- ハム・ソーセージは“毎日”ではなく“たまに”にする
といった工夫の方が、塩分カット効果は大きいです。
2 「減塩しょうゆ」「減塩みそ」も上手に使う
塩だけでなく
- しょうゆ
- みそ
- 麺つゆ
などを減塩タイプに変えるのも、トータルの塩分を減らしやすい方法です。
- 具だくさんの味噌汁にして、汁そのものの量を減らす
- めん類のスープを残す
といったテクニックも、日本高血圧学会が具体的な減塩方法として紹介しています。
3 「薄味に慣れる」には少しずつがコツ
いきなり半分の塩分にすると「まずい…」となって続かないので
- いつものレシピから1〜2割だけ塩やしょうゆを減らしてみる
- 酢やレモン、スパイス、薬味(ネギ・しょうが・しそ)など、塩以外の風味を増やす
といった形で、舌を少しずつ慣らしていくのがおすすめです。
まとめ
改めて、最初の疑問にざっくり答えると
- 精製された塩だけが特別に体に悪い、という決定的な証拠は見つかっていない
- 海塩や岩塩、自然塩も、主成分は同じ塩化ナトリウムで、健康リスクは「とりすぎるかどうか」で決まる
- ミネラル豊富な塩は「味と楽しさ」の違いとして楽しむのはアリだが、「健康効果」をあてにしすぎない方が安全
- 健康のためにいちばん効くのは「どの塩か」より「加工食品や外食も含めた塩分量を減らす工夫」
という感じになります。
もし今日キッチンを見回してみて
- 健康のために精製塩を全部捨てるかどうかで悩んでいる
- 自然塩を買ってみたけれど、使いにくくて放置している
という状況なら
- 普段の料理用には、扱いやすい塩をそのまま使う
- 仕上げ用にお気に入りの自然塩や岩塩をひとつ決める
- そのうえで、インスタントや外食の塩分を少しずつ減らしていく
という順番から始めるのが、いちばん現実的で“続けやすい”選択だと思います。
持病がある場合や、すでに減塩指導を受けている場合は、この記事の内容よりも必ず主治医や管理栄養士のアドバイスを優先してください。この記事は、日常のモヤモヤをほどくための「考え方のガイド」くらいに使ってもらえれば十分です。

