「なんか最近の料理って、やたら煙とか泡とか出てない?」
そんな風に思ったこと、ありませんか?レストランで見たこともない形の料理が出てきて、「これって食べられるの?」と驚いたことがある人も多いはず。
実はそれ、「分子ガストロノミー(Molecular Gastronomy)」と呼ばれる調理法のひとつなんです。名前だけ聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、実はとっても面白い世界なんですよ。
分子ガストロノミーとは?
科学と料理の融合
分子ガストロノミーとは、料理を科学的に分析し、化学や物理学の視点から新しい調理法を生み出す分野です。たとえば、液体窒素で急速冷却したり、食材を泡にしたり、ゲル状にしたりする技術が使われます。
- 「食材がどんな分子構造を持っているのか」
- 「温度や圧力をどう変えると味や食感がどう変化するのか」
- 「見た目や香りでどれだけ味覚が変わるのか」
こうした科学的アプローチをもとに料理が創作されるのが、分子ガストロノミーです。
普通の料理との違い
従来の料理が「経験と感覚」によって進化してきたのに対し、分子ガストロノミーは「理論と実験」によって進化します。そのため、調理器具もフライパンではなく実験器具のようなものが並びます。化学実験をしているかのように、味を追求していくわけです。
いつ、どこで生まれた?
始まりは1988年のシチリア
「分子ガストロノミー」という言葉が最初に使われたのは1988年、イタリアのシチリア島で行われた国際会議においてでした。この会議を主催したのは、物理化学者のニコラ・クルティ(Nicholas Kurti)と、化学者のエルヴェ・ティス(Hervé This)という2人の科学者。
彼らは「料理は科学的に説明されるべきだ」と考え、従来の料理学とは異なる視点から料理を研究することを提案しました。
- ニコラ・クルティ:オックスフォード大学の物理学者。冷却技術の研究者で、料理にも液体窒素などを応用。
- エルヴェ・ティス:フランスの国立研究機関INRAの化学者。食品の物理・化学的変化を研究。
この2人が提唱した「Molecular and Physical Gastronomy(分子と物理のガストロノミー)」が、やがて「分子ガストロノミー」として世界に広がっていきました。
世界的な広がりと有名シェフ
分子ガストロノミーは1990年代以降、スペイン、フランス、イギリスなどの革新的なレストランで取り入れられ始めました。
代表的なシェフたち
- フェラン・アドリア(Ferran Adrià)
- スペイン・カタルーニャの伝説的レストラン「エル・ブジ(elBulli)」のシェフ。
- 「泡の料理」「液体オリーブ」などの革新的な料理を生み出す。
- ヘストン・ブルメンタール(Heston Blumenthal)
- イギリスの三ツ星レストラン「ザ・ファット・ダック」のオーナーシェフ。
- サイエンスと料理の融合を徹底し、香りや音まで取り入れた料理を開発。
- グラント・アチャッツ(Grant Achatz)
- アメリカ・シカゴの「アリニア(Alinea)」のシェフ。
- 視覚や嗅覚まで巻き込んだマルチセンサリーな料理で有名。
日本における分子ガストロノミーの広がり
日本では2000年代以降、東京を中心にいくつかのレストランが分子ガストロノミーを取り入れ始めました。茶懐石にインスパイアされた和の表現を、最新の科学技術を使って演出するようなスタイルが見られます。
ただし、日本では科学よりも「職人技」や「自然との調和」が重視される文化が根強いため、分子ガストロノミーはまだ一部のハイエンドレストランに限られているのが現状です。
まとめ
分子ガストロノミーは単なる流行ではなく、「料理とは何か?」という根本に迫る新しい探究のかたちです。
もし次に、目の前に「泡のスープ」や「球体のソース」が出てきたら、それは科学と料理が出会った、分子ガストロノミーの世界かもしれません。