子どもの頃、祖母の家の近くに井戸がありました。夏になると冷たい水を汲んで飲むのが日課で、「この水は山の湧き水だから大丈夫」と祖母に言われて、なんの疑いもなくゴクゴク飲んでいました。
でも最近、「昔の井戸水でピロリ菌に感染した人がいた」という話を耳にして、ふと本当にあの水は安全だったのかと考えるようになりました。
結論:昔の人は「平気だった」のではなく、犠牲と工夫の上で生き延びていた
「昔の人は川や井戸の水をそのまま飲んでいた」と聞くと、今よりも自然に強かったようなイメージがあります。
しかし実際には、以下のような水系感染症が広く流行していました。
- コレラ
- 赤痢
- 腸チフス
とくに乳幼児や高齢者は感染症の影響を強く受け、多くの命が奪われました。
「生水でも大丈夫だった」のではなく、「大丈夫だった人だけが生き残った」という側面があるのです。
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なぜそれでも生き延びられたのか?
経験と自然淘汰
昔の人は、目に見えない菌の存在を知らなくても、水の安全性を五感で判断していました。
- 濁っていないか
- 変な匂いがしないか
- 流れがあるかどうか
祖母も「ぬるくて匂う水はやめなさい」とよく言っていました。
また、湧き水や上流の川の水など、「比較的安全」とされる場所の水を使うという知恵もありました。
無意識の工夫が功を奏した
当時の生活習慣そのものが、感染症対策になっていたとも言えます。
- 飲用と生活用水を分ける(上流・下流のルール)
- お茶や味噌汁など加熱処理された飲み物を摂取
- 酒やどぶろくなど発酵飲料の利用も一般的
加熱や発酵といった工程は、知らず知らずのうちに殺菌効果をもたらしていました。
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井戸とピロリ菌の関係は?
近年、井戸水がピロリ菌感染の原因となることがあると指摘されています。
ピロリ菌は胃がんや胃潰瘍などの要因とされ、特に乳幼児期に未消毒の井戸水を通じて感染する例が多かったことがわかっています。
私自身、井戸水を飲んで育ったので「もしかして…」と思い、検査を受けた経験があります。
当時は「自然の水=安全」と思っていたものの、それが誤解である可能性もあると知り、考えが変わりました。
動物はなぜ川の水を飲んでも平気なのか?
- 胃酸の強さが人間より高く、細菌への耐性がある
- 腸内環境の多様性が高い
- 危険な水を見分ける嗅覚や本能がある
私たち人間は都市生活の中で、こうした能力を徐々に失ってきました。
水道というインフラに頼ることで、「水を選ぶ感覚」そのものが薄れてきているのかもしれません。
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江戸や中世の都市部はどうだったのか?
人口が集中する都市では、水源の衛生状態は特に深刻でした。
- 排泄物や生活排水がそのまま川に流れ込む
- 浅い井戸は汚染されやすい
- 災害時の水質悪化により感染症が爆発的に拡大
都市部の水は「清潔とは言い難い環境」であり、外見がきれいでも安全とは限りませんでした。
現代の水道水は「奇跡的な安心」がつくられている
現在の私たちが毎日飲んでいる水は、「当たり前」ではありません。
その背後には、科学と制度、インフラ技術が集約されています。
- 浄水場での塩素消毒
- 厳格な水質基準(50項目以上)
- 定期的な水質検査
- 災害時の給水体制の整備
まとめ:昔の水と現代の水、それぞれの知恵と仕組みを知る
- 昔の人が飲んでいた水は「選び抜かれた」か「工夫された」ものだった
- 感染症のリスクと向き合いながら、生き抜く知恵を育んでいた
- 現代の水は科学と制度によって「安全」が作られている
こういった歴史を知ると、水のありがたみを今こそ見直すべき時かもしれませんね。