「昔の人は川の水をそのまま飲んでいた」と聞いて、「えっ、本当に平気だったの?」と驚いたことはありませんか?
実はこの話、大きな誤解を含んでいます。
この記事では、昔の人の水の飲み方、病気、知恵、そして現代との違いまで、科学的にわかりやすく解説します。
結論:昔の人は「平気」ではなかった
昔の人々は、生水を飲んでも健康だったわけではありません。
むしろ、水を介した病気(コレラ、赤痢、腸チフスなど)で多くの命が奪われていました。
「昔の人は免疫があった」というのも誤解で、水系感染症には一度かかっても十分な免疫が得られにくいものが多く、
しかも病原体の種類が多すぎて、“慣れ”だけで守れるものではなかったのです。
では、どうやって生き延びたの?
1. 自然淘汰と経験則
- 水の良し悪しを見分けられる人々が生き残った
- 危険な水源を避ける知恵や感覚が代々受け継がれた
- 湧き水や清流など、より安全な水源を選ぶ経験則が形成された
2. 生活の工夫と文化的な知恵
- 濁った水を避ける
- 飲み水は上流、洗い物は下流という使い分け
- お茶を飲む(=水を一度沸かす)
- 酒・ビールを飲む(=発酵過程で殺菌される)
- 汁物を煮て食べる(=加熱処理される)
これらは当時は“合理性を知らずに行っていた”ことでも、結果的に安全性を高めていたのです。
3. 環境条件の違い
- 現代よりも人口密度が低く、水源の汚染が限定的だった
- 工業排水が存在せず、自然の浄化作用が働いていた
- 山間部や湧き水周辺では、比較的清浄な水が得られた
動物たちはなぜ平気なの?
「動物は川の水をそのまま飲んでるのに、人間だけダメなの?」
これには生理的・進化的な違いがあります。
本能による“水の選択”能力
- におい、味、温度、色などから水質の異常を感知
- 腐敗や化学物質を本能的に避ける
- 湧き水や流れのある水を選ぶ傾向がある
種類別の違い
動物 | 水の摂取方法 | 特徴 |
---|---|---|
草食動物 | 朝露・植物からも水分を摂取 | 見張り役と共に水を飲むことも |
肉食動物 | 獲物の体液から水分補給 | 水を飲む頻度は比較的少ない |
人間との違い
- 胃酸が強い動物が多い → 一部の病原体を殺せる
- 腸内細菌の多様性 → 外敵への耐性が高いことも
- 自然環境に適応して進化 → 人間は都市化で本能的な感知能力を失った
都市部ではどうだったのか?
感染症の蔓延と子どもの犠牲
- 江戸・ロンドン・パリなどの都市部では、人口集中で水源がすぐに汚染
- 井戸や川が排泄物で汚染される
- 特に乳幼児の死亡率が非常に高かった
災害と水の危険
- 洪水や地震の後には、井戸や川の汚染が急増
- 避難所生活では、清潔な水の確保が困難に
- 過去には、災害後に感染症が広まった記録が多く残っています
現代の安全な水は「当たり前」ではない
私たちが当たり前のように使っている水道水は、以下の仕組みに支えられています:
- 上下水道の整備
- 塩素による殺菌
- 定期的な水質検査
- 源流の保全やダム管理
- 水道管・浄水場のインフラ維持
- 災害時の水運搬や給水体制の整備
💡つまり、現代の安全な水は「科学技術と社会制度の成果」なのです。
まとめ:昔の人が飲んでいたのは、たまたま“飲めた”水
- 昔の人々は、生水を飲んでも平気だったわけではない
- 実際には、水因性の病気で多くの命が奪われていた
- しかし、経験・知恵・環境・文化的工夫によって、なんとか生き延びてきた
- 動物は本能と生理的構造で水質に対応できるが、人間はそうではない
- 現代の水の安全は、先人たちの試行錯誤と近代科学の成果
川の水が安全だったわけではありません。
「安全な水を選び、工夫して使い、生き延びた人々の知恵と努力」が今日の清潔な生活につながっているのです。