今回は「叙述トリック」について、分かりやすい例を交えながら解説します。「あの名探偵の正体は実は…」「思い込んでいた犯人が違っていた」など、読者の予想を見事に裏切る展開の仕掛けについてお話しします。
叙述トリックって何?
叙述トリックとは、作者が言葉の表現を工夫することで、読者に「そういうことだろう」と思い込ませ、後で「実はそうではなかった!」と種明かしをする手法です。ミステリー作品でよく使われる技です。
どんなふうに読者は騙される?
例えば、こんな文章があったとします:
「その日、私は彼が最後に入った部屋を確認した」
多くの読者は「彼が生きているときに最後に入った部屋」と解釈するでしょう。でも実は「彼の死後、誰かが彼の死体を運び入れた部屋」という意味かもしれません。このように、自然な読者の解釈を利用して真相を隠すのが叙述トリックです。
叙述トリックの4つの基本パターン
1. あいまいな表現を使う
「先生は教室で倒れていた山田さんを見つけた」
→ 読者は「山田さんが教室で倒れた」と解釈
→ 実は「別の場所で倒れた山田さんが教室に運ばれていた」という真相
2. 視点で情報を制限する
「私は窓から外を見ていた。通りには誰もいなかった」
→ 読者は「通りに本当に誰もいなかった」と信じる
→ 実は「私が見ていた方向」には誰もいなかっただけで、後ろには重要な人物がいた
3. 時間の順序を巧みに使う
「昨夜8時のニュースを見ていたとき、外で大きな物音がした」
→ 読者は「8時にニュースを見ていて、そのとき物音が聞こえた」と解釈
→ 実は録画したニュースを後から見ていただけで、8時には別の場所にいた
4. 言葉の二つの意味を使う
「彼は妻の写真を見ながら、涙を流していた」
→ 読者は「妻を亡くして悲しんでいる」と解釈
→ 実は「これから殺害する妻への後ろめたさで涙を流していた」という意味
有名な作品での使用例
具体的なネタバレは避けますが、以下のようなトリックがあります:
- 語り手が実は犯人だった
- 一人の人物だと思っていたのが双子だった
- 過去の出来事だと思っていたら現在進行形の事件だった
- 目撃証言の「右」と「左」が人によって違っていた
叙述トリックの見破り方
完璧な方法はありませんが、以下のポイントに注目すると気づきやすくなります:
- 「なぜこの表現を使ったのだろう?」と気になる箇所
- あいまいな言い回しが使われている場面
- 時間の経過が不自然に説明される箇所
- 視点や語り手が急に変わる部分
まとめ
叙述トリックは、読者の自然な思い込みを利用した巧妙な技です。ただし、単なる騙しではなく、解けた時の「なるほど!」という驚きと納得が重要です。次にミステリーを読むときは、このような表現の工夫にも注目してみてはいかがでしょうか?